雅楽の部屋
源氏物語と枕草子 |
| 「源氏物語」 ここで少し、別のことからも雅楽を見てみたいと思います。平安時代に書か れた文学書、「源氏物語」の中に雅楽のことがよく出てきます。  「源氏物語」はみなさんよくご存じの紫式部という女性が書いた世界最初の長編小説、しか も女性が書いたわけですから、当時の貴族の女 性たちの教養がいかに優れていたかというのが わかります。 このお話は「光源氏」という主人公がいろい ろと遍歴をするわけですが、この中で雅楽は大 きな役割をしております。 この最初の頃の段の中に「紅葉賀の段」と言うところがございます。これは 帝が朱雀院に行幸されることが中心の段であります。この行幸についていけな い人、特に藤壺の宮のために宮廷の庭で予行演習をされます。 ここで雅楽の青海波という曲が舞われます。この曲は大変優雅な曲でありま す。二人舞ですが、当時の物語の中での美男子の代表、光源氏と頭中将（左大 臣家の長男でいとこ同士です）の二人が、光源氏は冠に白菊の枝を、頭中将は 冠に紅葉の枝を挿して舞う場面がでてまいります。 青海波の模様のはいった袍（ほう）（上に着るゆったりとした装束）は萌黄 色青海波の地文様に千鳥を数十羽を刺繍してあり、下襲（したがさね）にも洲 浜に 青海波の模様の衣装を付けて、片袖を脱いで打ち返す波を現すのでありま す。雅楽の中では大変有名な舞楽です。 ふと思いましたのは、青海波という紅葉がありますが（元は静崖といったよ うですが）それを挿したんでしょうか。 これ以外にも源氏物語には多くの雅楽の曲がでてきます。若紫の段には祈祷 に行った光源氏が北山の花の下で小宴を催したりしているのが絵巻にもでてき ます。他に迦陵頻、胡蝶などがでてきますし、源氏が笛を吹いて彼女が箏で合 わせたとか、実にいろいろな場面ででてきます。実に優雅な物語です。 「枕草子」 平安時代の代表作源氏物語がでれば、紫式部の良きライバル清少納言という 女性の書いた枕草子も出さないといけないでしょう。 枕草子は随筆風ですが、彼女も当時の女性の教養の高さが文章のあちこちに 見えます。 この中で２１８の段は雅楽の楽器の話が中心です。  「笛は横笛いみじうをかし。遠うより聞こゆるが、やうやう近うなりゆくもをかし。近かりつるがはるかになりて、いとほのか に聞こゆるもいとをかし。車にても、徒歩よりも、馬にても、す べて、ふところにさしいれて持たるも、なにとも見えず、さばか りをかしき 物はなし。まして聞き知りたる調子などは、いみじうめでた し。」 「笙の笛は月のあかきに車などにて聞こえたるいとをかし。所せく持てあつ かいにくくぞ見ゆる。さて吹く顔やいかにぞ。それは横笛も吹きなしなめりか し。」 「篳篥はいとかしがましく、秋の虫をいはば、轡虫などの心地して、うたて けぢかく聞かまほしからず。ましてわろく吹きたるはいとにくきに、」 この ように出てきます。 龍笛は遠くから聞こえてくる、だんだん近くなってきて、また遠くに離れて いくのも良い。ちょっと懐に入れて持っているのが良い。という意味かと思い ます。 笙のことも出てきます。月が出ているときに車などにのって聞くのが良いと いっているのでしょうか。あるいは扱いにくい。そうでしょうね、吹くには温 めて、吹き終わると又温めてしまう訳ですから、今のように電気で温めるわけ でないでしょうから、手間がかかったと思います。 篳篥だけは少し苦情が見えます。 篳篥は大変うるさく、悪く吹くのは論外だといっているのでしょう。 清少納言はなかなかの批評家ですね。  これ以外にも、２１６段に舞のことが出てきます。舞は太平楽が太刀などを持っているのがよい。抜頭は髪をふり あげたるのは等と出てきます。 次の２１７段には弾くのは琵琶と出てきて、 「箏の琴いとめでたし、調べはそうふれん」そうふれんは雅楽の 曲だそうです。 このように当時の平安時代の貴族の生活には雅楽が溶けこんでいたといえま す。  文学ではありませんが、子供の時に牛若丸 （後の源義経）が五条の橋の上で笛を吹いて 歩いてくる挿絵を見た記憶があるんですが、 そんなの言うと年が分かりますね。 後に義経はあちこちの神社や寺に龍笛を奉 納しておりますので、龍笛をよく吹いたのだ ろうと思います。そう考えると、牛若丸がひ らりひらりと弁慶の長刀を交わすときに吹い ていた曲はなんだったんだろうと考えるとおもしろいな、と思うのですが、皆 様はいかがでしょうか。  トップページに戻る |
| |
